【拡散された“危険説”】tp-linkハッキング事件はこうして世論になった──無視の過去と今の真実
公開日: 2025年6月28日
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「tp-linkのルーターって、なんか危ないらしい」
最近こんな噂を見たり聞いたりして、検索してこの記事にたどり着いた方も多いはずです。実際、2024年にはMicrosoftの公式レポートで世界中のtp-link製ルーターが16,000台以上ハッキングされていたという驚きの事実が明らかになりました。
ネット上では「tp-link=危険」という印象が一気に広まり、「使ってはいけない」「今すぐ買い替えろ」という声も飛び交っています。
ですが、ここで立ち止まって考えてみましょう。なぜここまで「危険だ」と言われるようになったのか?
実はその背景には、「昔、tp-linkは脆弱性報告を無視したことがある」という過去が関係しています。2017年〜2019年ごろ、報告を受けても長く対応しなかった事例が実際にありました。この事実が「やっぱりね」「前からそうだった」といったイメージを強化し、今回の事件をきっかけに一気に“危険説”が広がったのです。
では──その「危険説」は、本当に今のtp-linkにも当てはまるのでしょうか?
ここから先は、過去の事実と現在の取り組み、さらに“本当に危険だったこと”を時系列で見ながら、誤解と真実を丁寧に見分けていきます。
昔は“無視対応”、今はどうか?──tp-linkの過去と現在の姿勢を時系列で検証
「tp-linkは脆弱性を報告されても無視する企業だ」
そんな印象が広まったのは、2017年〜2019年にかけて実際に“報告を放置した”とされる事例が複数あったからです。
特に有名なのが以下の2つの事例です。
年 | 製品・CVE | 研究者の公開タイムライン | tp-linkの対応 | 出典 |
---|---|---|---|---|
2017 | NC210 クラウドカメラ |
|
初動3週間無反応+一度「対応しない」と返答 → 最終的にはベータ→正式FWへ |
rstenvi.github.io |
2019 | SR20 スマートルーター |
|
期限内に連絡なし → PoC公開後に修正対応 |
Gadgets360 |
どちらも、「3日以内に初回返信します」と明記された報告フォームを通じたにもかかわらず、連絡が取れなかったという点が共通しています。
その結果、セキュリティ専門家や報道メディアの間で「tp-linkは無視企業」「対応が遅いメーカー」という評判が定着しました。
では、それが現在も続いているのでしょうか?実は2023年以降、状況は大きく変わっています。
以下は、近年の代表的な対応例と改善ポイントです。
年 | 事例 | 公開→パッチまで | 備考 |
---|---|---|---|
2023 | CVE-2023-1389 (Archer AX21 RCE) |
2023/2/19:FWリリース済み 2023/3:ZDIが詳細公開 |
パッチは研究者公開より約4週早く出ていた |
2025 | CVE-2023-33538 (Archer/Deco系) |
2025/6:CISA KEV追加と同時にFW掲載 | 脆弱性表面化とほぼ同時に対処済 |
2024 | 社内体制 | – | CVE Numbering Authority(CNA)に正式登録 バグ報奨制度拡充、「5営業日以内に初回返信」と再宣言 |
🔍
結論:
たしかに2010年代後半は「無視」に近い対応がありました。ですが、現在は透明性を高めた社内体制へと明確にシフトしており、「今も一貫して無視している企業」という印象はすでに過去のイメージに近いと言えるでしょう。
何が起きたのか?──16,000台ハッキング事件の中身を詳しく解説
では実際、tp-linkのルーターがハッキングされたというのはどういう意味だったのでしょうか?単に「壊された」「データを盗まれた」わけではありません。
2024年10月、Microsoftの公式ブログが発表したレポートでは、16,000台以上のtp-link製ルーターがマルウェアに感染し、ハッカーに遠隔操作されていたことが明らかになりました。
この攻撃で使われていたのは「Storm-0940」と呼ばれる中国系のハッカー集団。そして彼らが構築していたのが、「Botnet-7777(通称:CovertNetwork-1658)」と呼ばれるボットネット(乗っ取られた端末の集団)でした。
このネットワークは、Bitsightの報告によると、常時8,000台以上がアクティブで、ピーク時には16,000台を超えて稼働していたとのことです。
そして、これらのルーターは単なる“被害者”ではなく、「攻撃の踏み台」として使われていたのです。
たとえば、Microsoft AzureやMicrosoft 365などのクラウドサービスに対し、「パスワードスプレー攻撃」という手法を仕掛けるため、感染したルーターが大量に使われていました。
🔍
パスワードスプレーとは?
「123456」「password」「111111」など、よくあるパスワードを多数のアカウントに少しずつ試していく攻撃手法。1回の攻撃でバレにくく、今も多用されています。
つまりこの事件では、感染したtp-linkルーターが“他人を攻撃する道具”に変えられていたというのが実態です。
「使っている本人には気づけない」「でも裏で誰かを攻撃している」──まさに現代のセキュリティリスクそのものです。
では、この事件がなぜここまで大きな規模になってしまったのか?
次章では、その原因=“パッチが出ていたのに更新されなかった”という問題に踏み込んでいきます。
なぜそんな被害が起きたのか?──パッチ未更新という“見落とされたリスク”
ここまでの話で、「tp-linkのルーターがハッキングされた」「他人を攻撃する踏み台にされた」という事件の全体像は見えてきました。ではなぜ、ここまで多くの台数が感染してしまったのでしょうか?
その答えはとてもシンプルで、そして少しショックかもしれません。
▶ 実は、攻撃に使われたルーターの多くは「パッチが出ていたのに更新されていなかった」だけだったのです。
例えば、今回の事件の発端となった脆弱性「CVE-2023-1389(Archer AX21 など)」について、tp-linkは2023年2月19日時点で修正済みのファームウェアを公式に公開していました。
しかし、Microsoftが攻撃を観測したのは2023年8月〜。つまり、パッチが出てから半年以上経っても、未更新のルーターが大量に使われていたということになります。
この問題をさらに裏づけるのが、Broadband Genieの調査です。イギリスの家庭ユーザーを対象にしたこの調査では、なんと89%が「一度もルーターのファームウェアを更新したことがない」と回答しています。
これはつまり、多くの家庭で「更新が必要なもの」とすら知られていなかったということ。スマホやPCのOSアップデートとは違い、ルーターの更新は“放置されやすい”構造にあるのです。
その結果、修正済みの脆弱性が“空いたまま”の状態で残り続け、ハッカーに悪用される土壌ができてしまった──というわけです。
🔍 ポイントまとめ
✅
パッチは出ていた
✅ でも多くの人が更新していなかった
✅ そのまま何ヶ月も使い続けた結果、感染台数が爆発的に増えた
つまり、「tp-linkが危ない」のではなく「更新されてなかったことが危ない」というのが、実際のところだったのです。
ではここで、一度立ち止まって考えてみましょう。なぜ、多くの報道やSNSでは「16,000台ハッキング」という数字ばかりが拡散され、「すでにパッチは公開されていた」という大前提が、ほとんど語られなかったのでしょうか?
それは、おそらく「tp-link=危険」という印象を強めたい側にとって、都合のいい“構図”があったからです。
「危険だ」と感じさせたいとき、最も効果的なのは怖い部分だけを切り取って見せること。もし「実は修正済みだった」「感染は未更新の機種に限られていた」といった補足を入れてしまえば、不安は和らぎ、衝撃も薄れてしまいます。
つまり、“前提を語らないことで、tp-link全体が危険に見える”ようなストーリーがつくられていた──それが今回の“危険説”が急拡散した大きな背景だったのではないでしょうか。
次は、そもそもその“更新”って何?という人のために、ファームウェア(FW)とパッチの基礎知識をわかりやすく解説します。
ファームウェアとパッチって何?3行でわかる入門編
ここでいったん、「ファームウェア」や「パッチ」という言葉をざっくり理解しておきましょう。
✅
ファームウェア(FW)とは?
ルーターの中にある“頭脳”=動きを決める小さなOSのことです。スマホでいう「iOS」や「Android」と似ています。
✅
パッチとは?
セキュリティの“穴”をふさぐ布パッチのようなもの。
見つかった弱点を埋めるためにファームウェアの一部が修正される仕組みです。
📌 重要: この“パッチ”を当てないままだと、ルーターの中に「誰でも侵入できるドア」が開きっぱなしの状態になるということなんです。
スマホやPCのOSアップデートは「自動」または「通知」が来るから忘れにくいですが、ルーターのファームウェアは基本的に“自分で更新する”必要があるため、多くの人がやり方も存在も知らずに放置してしまいます。
実はここが今回のハッキング事件の“見えない落とし穴”だったわけです。
次章では、こうした放置がなぜ“誤解”や“危険説”に変わっていったのか、その構造を解き明かしていきます。
実際に狙われたのは“あなた”ではなかった
ここで、読者のあなたにとっていちばん大事なポイントをお伝えします。
🔐
今回のハッキング事件で「狙われた」のは、tp-linkユーザー自身ではありません。
あなたの個人情報やWi-Fi履歴が盗まれたわけではなく、“ルーターが踏み台として悪用された”のが実態だったのです。
この「踏み台(ふみだい)」というのは、攻撃者があなたのルーターを経由して、別の相手を攻撃するために使ったという意味です。
つまり、“あなたの家のルーター”が、あなたの知らない間に、他人のクラウドアカウントへの攻撃に利用されていたという構図です。
言ってみれば、あなたのルーターが「偽の中継所」にされたようなもので、加害者ではないけれど、結果的に“手を貸していた”状態だったのです。
このことは、Microsoftの公式レポートにもはっきり記されています。
つまり──
「感染した=情報を抜かれた」「tp-linkを使ってる=危ない」ではないということなんです。
ですがネット上では、こうした前提が省略されたまま、“tp-link=危険”という印象だけが広がってしまいました。
次の章では、その「誤解の広がり方」と「情報がねじれて伝わる仕組み」を、冷静に見ていきましょう。
“tp-link危険説”はどうして広がった?その構造を読み解く
ここまで読んで、「あれ?思ってたよりtp-linkって悪くない…?」と感じた方も多いかもしれません。
ではなぜ、あれほどまでに「tp-link=危険」というイメージが一気に広がってしまったのでしょうか?
その理由は、情報そのものより、“伝え方”と“受け取り方”に問題があったからです。
①
記事や見出しが「数字」だけを切り出していた
・「16,000台ハッキング」
・「中国系ハッカーによる感染」
・「Microsoftも調査中」
これらはすべて事実ですが、「パッチは出ていた」「感染したのは未更新機」など、重要な前提が省略された状態で拡散されました。
② SNSでは“タイトルだけ読んでシェア”が主流
TwitterやYouTubeのコメント欄では、「tp-link終わったな」「やっぱり中華製は信用できん」といった断定的な反応が多く見られました。
③ YouTubeでは“二次コピー解説”が量産された
発端となったニュースをもとに、内容を確認せず言い換えただけの「危険系動画」が多数投稿され、それがさらに「証拠」にされていきました。
④ 「昔から無視してた」記憶が“今も続いてる”印象に
2017〜2019年のtp-linkの無視事例(NC210、SR20など)が再び引っ張り出され、「やっぱり変わってない」「信用できない」という感情に結びついたのです。
🔍
結論:
「tp-link=危険」は、正確に言えば「そう“感じる構造”が出来上がっていた」という方が近いのです。
情報の一部だけが強調され、誰かがコピーして動画や記事にして、さらにそれが引用されて広がる──そのループが、いつの間にか「世論」になってしまった。
でも本当に大切なのは、“数字や雰囲気”ではなく、あなたの目で事実を確かめる力です。
次は、そんな誤解や不安を断ち切るために、あなた自身で今すぐできる3つの対策を紹介します。
今あなたができる3つのチェックと対策
ここまで読んでくださったあなたなら、もう「印象」や「噂」で判断するのではなく、自分のルーターの状態をちゃんと確認してみようという気持ちになっているはずです。
そこで、今すぐできる3つのシンプルなチェック&対策をご紹介します。
✅ ①
ファームウェアが最新か確認する
ルーターの管理画面にログインして、「ファームウェアの更新」メニューをチェック。
メーカーサイトで最新バージョンが出ていないかも確認しておきましょう。
✅ ②
自動更新をONにする
最近のルーターは、自動でパッチを当ててくれる機能がついています。
設定画面で「ファームウェアの自動更新」「自動アップデート」などの項目がONになっているか確認しましょう。
✅ ③
自分のルーターが危険なCVEに含まれていないか調べる
CISAの脆弱性カタログ(KEV)では、実際に悪用された脆弱性が一覧で公開されています。
型番(例:Archer
AX21など)で検索するだけでも、自分の機種が安全かチェックできます。
どれも無料で簡単にできるチェックばかりなので、ぜひこの記事を読んだ「今すぐ」にやってみてください。
このあと最後に、なぜ私たちは“空気”で判断してしまうのか──そしてそれをどう乗り越えるかを一緒に考えてみましょう。
まとめ:空気に踊らず、正しい判断で選べる自分になろう
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
あなたは今、「tp-linkは危ないらしい」という空気や噂に流されることなく、ちゃんと情報の出典と背景を知った上で、自分の頭で判断できる状態にいます。
この記事では、
- ☑ 過去にtp-linkが脆弱性対応を放置していた事例があったこと
- ☑ でも近年は改善し、CVE対応やCNA登録も済ませていること
- ☑ ハッキング事件は“パッチ未更新”が主因だったこと
- ☑ 「危険説」は構造的に広まり、実態とはズレがあったこと
──これらを事実とデータで一つひとつ確認してきました。
📌 大事なのは、「危険か安全か」ではなく、“判断する力”を持つことです。
どんな製品も完璧ではありません。重要なのは、正しく知り、自分のルーターをきちんと管理すること。
そして何より、「自分で調べよう」「本当のことを知ろう」と行動したあなた自身が、もっとも信頼できる存在です。
これからもネットの情報をただ信じるのではなく、「確かめる目」を持ち続けてください。
それが、一番安全で、賢くて、かっこいい選び方です。
私はあくまでも中立の立場で、実際に起きた出来事と、公式に確認できる証拠をもとにこの記事を書きました。
信じるかどうか、どう判断するかは、あなた自身の目と考えに委ねられています。
だからこそ、これからも「自分で確かめて選ぶ」あなたでいてください。