その「お得」、本当ですか?スマホ・光回線とセットのカード契約、その前に
公開日: 2025-08-02
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第1章 「お得ですよ」は誰のため?動画クリエイターと企業の裏事情
「iPhoneが激安」「この光回線が一番お得」――こうしたYouTube動画が後を絶たないのは、動画を作る人(クリエイター)にとって、それが大きな収入源になるからです。彼らは単に情報を紹介しているのではなく、あなたたちを特定の商品契約へと導くことでお金を得ています。
その主な仕組みが「アフィリエイト」です 。クリエイターは、動画の説明欄に特別な紹介用リンクを貼り、私たちがそのリンクを経由して商品やサービスを契約すると、企業から成功報酬が支払われます 。企業にとっては、実際に契約が成立した場合にのみ広告費を払えばよいため、非常に効率的な宣伝方法なのです 。
また、「企業案件」と呼ばれる、企業が直接クリエイターにお金を払って宣伝動画を作ってもらうケースもあります 。
どちらのケースでも、クリエイターの収入は「どれだけ多くの人に契約させるか」にかかっています。そのため、動画は客観的な比較というより、契約してもらうことを目的とした「宣伝トーク」になりがちです。
特に、通信契約やクレジットカードは、一度契約すると長期間利用が見込めるため、企業は新規顧客一人を獲得するために高額な報酬をクリエイターに支払うことができます。私たちが目にする「お得情報」は、本当に私たちにとって一番お得だから紹介されているのではなく、「クリエイターにとって一番儲かるから」紹介されている、という側面が強いことを知っておく必要があります。
第2章 「お得」の正体:よくある4つのケースを徹底解剖
一見すると非常に魅力的な「お得」な話には、よく見るとたくさんの条件や隠れたコストが潜んでいます。ここでは特に多い4つのケースを取り上げ、宣伝されている内容と実際の契約内容の違いを明らかにします。
2.1 「激安iPhone」のからくり:それは「購入」ではなく「レンタル」
宣伝文句
「iPhoneが実質1円」といった衝撃的な価格。これは、他社からの乗り換え(MNP)を条件にしたキャンペーンでよく見られます。
現実:2年後にスマホを返却する「端末返却プログラム」
この驚きの安さの秘密は、2年後に使っているスマートフォンを携帯会社に返却することを前提とした「端末返却プログラム」にあります 。これは物を買う「購入」というより、2年間の「レンタル」に近い仕組みです 。
知っておくべきリスク
- 自分の物にはならない: 2年後に返却するため、手元には何も残りません。本来であれば中古ショップに売って得られたはずのお金(数万円)を放棄することになります 。
- 傷や故障は自己負担: 返却時に画面割れや目立つ傷があると、最大で22,000円といった追加料金を請求されることがあります 。スマホをきれいに使い続ける自信がない人には大きなリスクです。
- 乗り換えの無限ループ: 2年後にスマホを返すと、また新しいスマホが必要になります。結局、同じ携帯会社で同じようなプログラムを繰り返し利用することになり、なかなか他社に乗り換えられなくなる可能性があります 。
2.2 「高額キャッシュバック光回線」の長い道のり
宣伝文句
「乗り換えるだけで5万円キャッシュバック!」といった、簡単にお金がもらえるかのような宣伝。
現実:忘れやすく、面倒な手続き
高額なキャッシュバックほど、受け取るまでの道のりは険しくなっています。
- もらえるのはずっと先: キャッシュバックの案内が来るのは、契約してから約1年後というケースがほとんどです。その頃にはキャンペーンのこと自体を忘れてしまいがちです。
- 気づきにくい案内メール: 案内は、普段使わないプロバイダーのメールアドレスに届くことが多く、見逃しやすいようにできています。
- 短い申請期間: 案内メールに気づいても、「メール受信から45日以内」といった短い期間内に手続きをしないと、キャッシュバックの権利がなくなってしまいます。
- 不要なオプション加入: 最高額のキャッシュバックをもらうために、月々数百円の不要なオプションに複数加入することが条件になっている場合があります。
この複雑な仕組みは、手続きを面倒に感じる人や忘れてしまう人がいることを見越した、企業側の戦略とも考えられます。
2.3 スマホ乗り換えとセットで勧められる「お得なカード」の落とし穴
携帯電話の乗り換え(MNP)や光回線の契約時に、「このクレジットカードを作ると、もっとポイントがもらえてお得ですよ」と勧められることがよくあります。しかし、その「お得」が本当に自分にとってプラスになるのか、冷静に判断する必要があります。ここでは、特によく勧められる4つのカードについて、その仕組みと注意点を解説します。
ケース1:dカード / dカード GOLD(ドコモユーザー向け)
- 宣伝文句: 「dカード GOLDなら、毎月のドコモ料金の10%がポイントで戻ってくる!」
- 現実と注意点:
- 年会費11,000円の壁: dカード GOLDには年会費が11,000円(税込)かかります。この年会費の元を取るには、毎月のドコモ(携帯電話やドコモ光)への支払いが税抜で約9,200円以上でなければなりません 。家族の分をまとめて支払っているなど、支払額が大きい人でないと、むしろ損をしてしまいます。
- 対象外プランに注意: ドコモの格安プランである「ahamo」や「irumo」の利用料金は、この10%還元の対象外です 。これらのプランを使っている人は、GOLDカードを持つメリットがほとんどありません。
- ポイントの使い道: もらえるポイントは、使える期間やお店が限られている「期間・用途限定ポイント」であることが多いです 。
ケース2:au PAY カード / au PAY ゴールドカード(au・UQモバイルユーザー向け)
- 宣伝文句: 「au PAY ゴールドカードで支払えば、auの利用料金から最大10%ポイント還元!」
- 現実と注意点:
- dカード GOLDと同じ構造: こちらも年会費11,000円(税込)がかかります 。年会費の元を取るには、dカード GOLDと同様に、毎月のauやUQモバイルへの支払額が一定以上である必要があります。
- 割引は一部プランのみ: 月々の料金が割引になる「au PAY カードお支払い割」は、すべてのプランが対象ではありません 。自分が利用するプランが割引対象か、事前に確認が必要です。
- 還元はau PAY残高: MNP乗り換えキャンペーンなどでもらえる特典は、現金ではなく「au PAY残高」へのチャージです 。普段au PAYを使わない人にとっては、使い道に困るかもしれません。
ケース3:PayPayカード(ソフトバンク・ワイモバイルユーザー向け)
- 宣伝文句: 「ワイモバイルの支払いをPayPayカードにすれば、PayPayポイントがどんどん貯まる!」
- 現実と注意点:
- 年会費は無料だが…: 年会費が無料なのは魅力的です。しかし、このカードの真価が発揮されるのは、ソフトバンクやワイモバイルを使い、かつ「Yahoo!ショッピング」で頻繁に買い物をする人です 。
- 月々の割引は少額: ワイモバイルの料金が割引になる「PayPayカード割」の割引額は、月々187円(税込)です 。この割引だけを目的にカードを作るメリットは小さいでしょう。
- ポイント経済圏への依存: お得さを最大限に享受するには、支払いをPayPayに集中させるなど、ソフトバンク・Yahoo!・PayPayのサービス網(経済圏)に深く関わるライフスタイルが求められます。
ケース4:楽天カード(楽天モバイルユーザー向け)
- 宣伝文句: 「楽天モバイルと楽天カードをセットで使えば、楽天市場でのお買い物が超お得に!」
- 現実と注意点:
- 楽天市場ヘビーユーザー向け: この組み合わせの最大のメリットは、楽天市場でのポイント還元率(SPU)が上がることです 。つまり、日常的に楽天市場で多くの買い物をする人でなければ、その恩恵を十分に受けることはできません。
- ポイントは期間限定・分割払い: MNP乗り換えでもらえるポイントは、使える期間が短い「期間限定ポイント」であり、数ヶ月にわたって分割で付与されることがほとんどです 。一度にまとまったポイントが手に入るわけではないので注意が必要です。
2.4 「ポイント目的」のカード申し込みが招く思わぬリスク
「乗り換えキャンペーンのたびに新しいクレジットカードを作ればお得かも」と考えるのは危険です。短期間に何枚もクレジットカードを申し込むと、「お金に困っている人」と見なされ、信用情報に傷がつく可能性があります。これは「申し込みブラック」と呼ばれる状態で、この記録は6ヶ月間残ります。一度この状態になると、本当に必要な住宅ローンや自動車ローンなどの審査に通りにくくなるという、将来にわたる大きな不利益につながる恐れがあるのです。
第3章 企業の狙い:なぜ「セット契約」を勧めてくるのか?
企業がスマホの乗り換えや光回線と同時にクレジットカード契約を熱心に勧めてくるのには、明確な理由があります。それは、私たち顧客を自社のサービス網に「囲い込み」、長期間にわたって利益を得続けるためです。
3.1 顧客の「囲い込み」戦略
携帯会社にとって、一度契約してくれたお客さんには、できるだけ長く自社のサービスを使い続けてもらうことが最も重要です 。携帯電話だけでなく、インターネット回線、クレジットカード、ポイントサービス、さらには電気や銀行まで、同じ会社のサービスで生活を固めてもらうことで、お客さんは他社に乗り換えるのが面倒になります 。これを「囲い込み」や「エコシステム戦略」と呼びます。
最初の割引やポイント還元は、いわば企業にとっての「先行投資」です。目先の利益を私たちに提供することで、将来にわたって月々の利用料金や手数料といった、より大きな利益を安定的に得ようとしているのです 。
3.2 クレジットカード会社の収益の仕組み
クレジットカード会社の主な収入源は、私たちが払う年会費よりも、お店がカード会社に支払う「決済手数料」です。私たちがカードを使えば使うほど、カード会社は儲かる仕組みになっています。
そのため、携帯会社と提携して「このカードで払うとポイントがお得ですよ」と宣伝し、私たちにカードを作らせ、毎月の携帯料金という継続的な支払いをそのカードに紐づけることで、安定した手数料収入を確保しようとします。豪華なポイント還元は、私たちにもっとカードを使ってもらうための「撒き餌」と考えることもできるのです。
私たちが目先の「お得」に飛びつくとき、企業側は「このお客さんが将来にわたって、どれだけの利益をもたらしてくれるか」を計算しています。私たち消費者も、目先の利益だけでなく、その契約が2年後、3年後に本当に自分のためになるのか、長期的な視点で判断する必要があります。
第4章 私たちを守るルール:知っておきたい法律の知識
企業の巧みな宣伝から私たち消費者を守るための法律や制度があります。これらを知っておくことは、賢い選択をするための武器になります。
4.1 景品表示法:「お得すぎる」広告へのブレーキ
この法律は、大げさな広告や誤解を招く表現で商品を売ることを禁止しています 。
特に「有利誤認表示」というルールが重要で、実際よりも著しくお得であるかのように見せかける表示を規制しています 。
- キャッシュバックの例: 「10万円キャッシュバック」と大きく書いておきながら、そのための非常に難しい条件を小さく、分かりにくく表示している場合、この法律に違反する可能性があります。
- 「期間限定」の罠: 「今だけの特別価格」と宣伝しながら、実際には一年中同じ価格で販売している場合も、有利誤認表示にあたります。
4.2 電気通信事業法:通信契約トラブルから身を守る盾
この法律には、通信サービスの契約に関する消費者保護のルールが定められています 。
- 契約前の書面説明: 事業者は、契約前に料金や解約条件などを書面で説明する義務があります 。口頭での説明と書面の内容が違う場合は、書面が正となります。動画や店員の甘い言葉に惑わされず、必ず書面の内容を自分の目で確認しましょう。
- 初期契約解除制度(クーリング・オフ): 契約書面を受け取ってから8日以内であれば、たとえサービスを使い始めていても、解約金なしで契約を取り消すことができます 。
- 解約金の上限: 法律の改正により、解約時に請求される違約金は、原則として月額料金の1ヶ月分が上限となりました 。これにより、昔のような高額な違約金で乗り換えをためらうケースは減りました。
これらの法律は、過去に多くの消費者トラブルがあったために作られたものです 。つまり、企業側の行き過ぎた販売手法が常に存在してきた証拠でもあります。だからこそ、私たちは常に少し疑いの目を持ち、自分に与えられた権利をしっかりと使うべきなのです。
第5章 賢い消費者になるために:契約前の最終チェックリスト
これまでの分析を、具体的な行動に移すためのチェックリストにまとめました。これを活用し、宣伝文句を鵜呑みにする「受け身の消費者」から、情報を冷静に分析する「賢い消費者」へとステップアップしましょう。
5.1 契約前に心に刻むべき4つの原則
- 原則1:支払う総額で考える。
目先の「実質1円」や「2万円ポイント還元」に惑わされない。2年間の契約期間全体で、結局いくら支払うことになるのかを必ず計算する。 - 原則2:誰が一番得をするのか考える。
「この契約で、一番儲かるのは誰だろう?」と自問する。クリエイターや企業の狙いを理解すれば、その「お得」が誰に向けられたものか見えてくる。 -
原則3:複雑な条件は「危険信号」と心得る。
特典の受け取り方がやたらと面倒な場合、それは意図的にそう設計されている可能性が高い。手続きをあきらめる人を見越した戦略だと考える。シンプルな契約こそが、消費者にとって最も安全である。 - 原則4:信じるべきは「紙の契約書」のみ。
動画や店員の口約束は、法的な効力を持たない。契約書に書かれていることだけが、あなたと企業との間の正式な約束事である。
5.2 あなたのための最終確認チェックリスト
□ 「激安スマホ」を検討しているあなたへ
- [ ] この安さを実現するために、2年後にスマホを返却する必要がありますか?
- [ ] もしスマホを落として傷つけたり、壊したりした場合、最大でいくらの追加料金がかかりますか?
- [ ] 2年後もこのスマホを使い続けたい場合、最終的に支払う合計金額はいくらになりますか?
□ 「高額キャッシュバック」に惹かれているあなたへ
- [ ] キャッシュバックの案内は、いつ、どのメールアドレスに届きますか?(忘れないように、今すぐカレンダーに登録!)
- [ ] その案内が来てから、手続きを終えるまでの期限は何日間ですか?
- [ ] キャッシュバックをもらうために、不要な有料オプションに入る必要はありませんか?
□ 「スマホ乗り換えとセットのカード」を勧められているあなたへ
- dカード GOLD / au PAY ゴールドカード の場合
- [ ] 年会費11,000円を払っても元が取れるほど、毎月のドコモ/auへの支払額は大きいですか?(目安:月々約1万円以上)
- [ ] 自分が使っている(または使う予定の)料金プランは、ポイント10%還元の対象になっていますか?(ahamoなどは対象外)
- 楽天カードの場合
- [ ] 私は、日常的に「楽天市場」で多くの買い物をしていますか?
- PayPayカードの場合
- [ ] 私は、ソフトバンクかワイモバイルユーザーで、かつ「Yahoo!ショッピング」をよく利用しますか?
- すべてのカードに共通
- [ ] もらえるポイントに、有効期限や使い道の制限はありませんか?
- [ ] ポイント欲しさに、短期間に何枚もクレジットカードを申し込んでいませんか?(将来のローン審査に影響する可能性があります)
5.3 結論:情報の受け手から、分析者へ
オンラインに溢れる「お得」な情報は、私たちを特定のサービスに長期間つなぎ留めたい企業と、その手助けをすることで収益を得るクリエイターたちによって作り出された、巨大な仕組みの一部です。
この仕組みを理解することで、私たちは宣伝文句の「標的」から、自分にとって本当に価値のある提案かどうかを冷静に見極める「分析者」へと変わることができます。最終的に選ぶべきは、アルゴリズムが勧める選択ではなく、あなた自身の生活と家計にとって、真にプラスとなる選択なのです。